
第四章 新たなる仲間 一話
エンジョー、フピター エンジョー、イアー。
妙なオペラの様なテンポの音楽を心の中で奏でながら、豪真は体を少しのけぞり両手を広げ目を瞑り、歓喜に満ちた表情をする。
「相変わらずですね豪真さん」
豪真の横から近付いてイケオジの様な声で喋りかけてきたのは、銅羅だった。
「お前か。何の用だ?」
豪真は姿勢を正し、訝しい目を銅羅に向ける。
「いえいえ、ただの視察ですよ。来月の火曜日に行われるクリーチャープレイバスケットボールの参加者は、誰であれ分析したいですからね」
銅羅は肩を軽く弾ませながら爽やかな顔で言う。
「ふん。いい気なもんだ。クリプバの運営委員会会長兼、アサルトハイドチームの監督だもんな。全大会の優勝チームが、弱小チームのうちを視察して何の得がある?」
豪真は嫌味ったらしい口調だった。
その顔からも怪訝と言うより不快感を露わにしている様な。
「そう突っかからないでくださいよ。私は慢心しないのがモットーなんです。それより中々興味深い新人が入ったようですね」
「……買収するつもりじゃないだろうな?」
「まさか。むしろ、チームをスカウトするのが必要なのは豪真さんの方では? 何せ、スタンダートロードしか居ないチームじゃ、この先、辛勝する事すら困難ですよ。せめてエクストラロードの選手、一人ぐらいいないと」
銅羅は落ち着いた声音でそう言うと、豪真は大分、不機嫌な表情になる。
何も言い返せない豪真は、ただ、ただ、銅羅に鋭い目つきしか向けられなかった。
「では私はここいらで失礼します。もし試合で対決する事があれば、手加減しておきますよ。一方的な試合では無(ぶ)聊(りょう)と言うものですしね」
銅羅は頬に笑みを浮かばせながら観客席を後にした。
すると、観客席ですれ違いに、別の人物が豪真に近付いてくる。
銅羅は横切るとき、その人物に軽く会(え)釈(しゃく)するがその人物は気に食わない表情で無言でスルーする。
「どうも天木さん。あなたがここに来るなんて珍しいですね」
豪真が珍しく敬語を使う相手は四十代後半の女性だった。
白髪で赤(あか)渕(ぶち)メガネをかけ、クールな顔立ちをしたカッコいい女性だった。
名は、天(あま)木(き)由(ゆ)紀(き)子(こ)。
「なに、ただの気まぐれで来たんだよ。それにしても中々面白い新人が入ったじゃないか」
「ええ。私も正直予想外の逸材だと思います。ただ」
「……エクストラロードには到達してないと」
「そうです」
豪真のあまり覇気の感じ無い声。
由紀子は渋い表情で理亜たちを見ていた。
「それで本当に何しに来たんですか? ここは私の貸し切りにしてあるのに、入れると言う事は、受付の人間に金でも握らせたんでしょう? 銅羅のように」
「やれやれ。あんたのチームが気がかりでね。今回初めて結成されたチーム。シャルトエキゾチックだっけ? あんたのチームにエクストラロードの持ち主が一人も居ないから心配でね」
「それでわざわざ?」
「ああ」
二人は自然に言葉のキャッチボールをするが、どこか気が晴れないと言う様子。
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