
第三十三章 決められるわけもない優劣 七話
「芙美ちゃん……」
聖加が憂慮する先で泣いていたのは静香だけではない。
芙美もまた、悔しさのあまり、涙を流していた。
全身汗だくになりながら、涙か汗か分からない。
しかし、確かに、芙美は泣いていた。
仲間を救いたいと言う、思いやりの涙が……。
「よしっ! あいつらの栄誉と勝利を大いに称えるためにも、ビシッと決めてこうぜ!」
そこで、キャプテンの順子が、凛々しく、雄々しく、ダイオンジチームを引っ張る。
黙って整列しに行く理亜たち。
しかし、その表情に差はあった。
勝者と敗者。
これは、競技にとって、必然の物。
仕方ない事と言うのは、順子たちも、百も承知。
だからこそ、理亜たちに胸を張った姿を見せてやりたい。
負けはしたが、こんな最高のチームと試合できた、と言う誇りを胸に……。
「九十八対九十七で、シャルトエキゾチックチームの勝利とします!」
「「ありがとうございました!」」
「うおおおおおおーーーー!」
審判のお兄さんが覇気のある声でそう言うと、両チームは腹の底から声を出す。
観客たちは、かつてない程の、熱狂で渦を巻いていた。
「いやあー、参った参った。完敗だよ」
にこやかにそう言いながら理亜に近付いてきて、握手を求めてきたのは順子だった。
「私たちも危なかったよ。凄いね皆」
理亜も嘘偽りのない言葉で返す。
「なあに、私たちはまだまだだ。決勝戦、勝てよ」
「うん♪」
順子と理亜が、互いに拳闘を称えた握手をする。
「そこの八番。名は何と申す?」
「え、私? 理亜。千川理亜」
そこで、芙美が近付き、理亜の名前を聞くと、意外そうな反応をする。
「あっ! 去年のインターハイ優勝校のエース。千川理亜さん?」
「えーと、一応そうだけど」
エノアが会話に割って入り、一驚した面持ちで理亜にそう聞くと、理亜は少し戸惑いながら返事をする。
「どうりで強いわけだねえ。でも私たち、そんな強いチームに一点差まで詰め寄れたんだから、十分頑張ったんじゃない? 何より楽しかったし」
ご満悦の表情で、聖加が小さく手を握り、はしゃぎ気味だった。
「そこのペチャパイ女は、名前何て言うじゃん?」
「いい加減にその呼び名は止めろ!」
静香が興味を持ったのか、奏根にキョトンとした面持ちでそう聞くと、ギャグ漫画の様なキレっぷりでツッコむ。
「「アハハハハッ!」」
全員、その場で腹を抱えるかのように笑い出す。
「千川理亜か。覚えておこう」
「うん。貴方の名前は何て言うの?」
芙美が物腰良く言うと、理亜も芙美に興味を持ち名前を聞いてみる事に。
「稜々芙美じゃ。良いか理亜よ。次合う時にまで敗北する出ないぞ」
「分かった」
芙美と理亜は、その場で熱い握手を交わす。
そして、クールに去っていこうとする芙美。
「何言ってんだ? この後皆で宴会だぞ」
「……なぬ?」
そこで、順子が笑みでそう芙美に告げると、背後を向いていた芙美が、眉を顰めながら顔を振り向かせる。
「いいね。いいね。皆でお疲れ様パーティーやろうよ」
すると、智古がはしゃぎながら口にする。
「アッハハハッ! 芙美ちゃんが決めて去ろうとするには、少し間抜けじゃん!」
大笑いする静香。
芙美は顔を赤面させて俯き、唇を噛み締める。
どうやら、去り際の捨て台詞が無意味に終わり、赤っ恥を欠いた事のデレみたいなものか? と理亜たちはそう思い、順子たちと一緒に大笑いする。
「いやはや、参りました。どうやら優劣は決められましたかな?」
達樹が豪真たちの居るベンチに向かい、仏の様な笑みで豪真に片手を差し伸べる。
「ご足労、痛み入ります。ですが、優劣などありません。競技と言うのは、平等であり、偏りがあります。だからこそ尊いのです。ただそれだけですよ。貴方たちは、最高のチームです。私たちと同じ」
豪真も笑みを浮かべながら、達樹の手を握り返すと「はっはっはっ。仰る通りです。私たちにとってチームとは、掛け替えのないものの様ですね」と変わらぬ面持ちで口にする。
てっきり由紀子も会話に混ざるかと思いきや、由紀子は、いつの間にか姿を消していた。
「あれ? 由紀子さん?」
豪真は、ついさっきまでいたはずの由紀子が消えてしまった事に、終始、動揺する。
「何やってるんですか? 早く行きましょー!」
「おおうーー!」
加奈が、豪真の片腕を半ば無理やり手を通し、引っ張っていくと、エノアも満面の笑みで達樹の手を握り、引っ張っていく。
「因みに誰がパーティーの会費を払うんだ?」
「え? 豪真さん♪」
豪真が会場を離れながら、理亜たちに向かい、訝しい目でそう聞くと、理亜は、素っ頓狂な面持ちで、当り前かの様に口にする。
豪真は、諦めて何も言う気は起きず、肩をガックシと落とすぐらいしか出来なかった。
こうして、第二回戦は、幕を閉じたのだった。


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