
第三十五章 毒牙 三話
それから一時間後の夜二十一時頃。
輝美と善悟は砂川の北光団地の住宅街をうろうろしながら、捜査に勤しんでいた。
「なあ輝美。このまま調べても埒が明かないぜ。銅羅の身元を調べようにも、クリプバの観客たちを割り出しても何も吐かないし、挙句の果てに銅羅の会社に行っても門前払い。このままじゃ、徒労に終わっちまうよ」
辟易となっている様子の善悟。
どうやら、捜査しても何の進展もなく、もう闇雲に調べてるだけだった。
「ここに来たのも、銅羅の手がかりを得るためだっての忘れるなよ」
「いやいや、無暗に近隣住民に銅羅の事聞くなんて、切羽詰まりすぎだろ。仮に聞いても一般人が分かるわけもないし、これが銅羅の耳に入ったりした日には、ここの住人、全員殺される可能性もあるんだぞ」
輝美は訝しい目を住宅街に向けると、善悟が少し慌てながら行動を起こそうとする輝美を止める。
「……ああ。そうだな。ここまで追い詰められてるからこそ、俺はこんな愚策に足を突っ込んでんのかもな」
自分に呆れて口にする輝美に、善悟は大きな溜息を吐く。
「なあ、この山から下りるって選択肢あるか?」
「ないな。こんな悪逆非道な事件、看過できるわけがない」
「へいへい、仰る通りで」
二人は団地の家の壁にもたれながら眩い星を見上げた。
少しでも気持ちを落ち着かせ、前向きにするために。
だが、晴れるわけもない。
そこまで人間は、単純ではないと言う事だ。
そうこうしている内に、理亜たちが車で団地の前を通ると、加奈が「なんか不審者ポイ人たちが、団地の前の壁で腰かけてます」とどこか落ち着かない様子で喋ると、豪真が少し気になったのか、車を止める。
「監督はいつでも車を出せる様、ここでスタンバってくれ」
「お、おい!」
奏根は目をギラギラに燃やしながら、不審者と思われる輝美たちに向かって行くと、理亜たちも続く。
豪真は、厄介な事に首を突っ込まないかどうか、気が気でない様子。
「どうする? 今日は帰るか?」
「そうだな」
二人が潮時と判断し、去ろうとした時だった。
「確保――――!」
「うわああああ!」
背後から奏根がラグビーの渾身のタックルの様に、善悟の腰に突っ込むと、透かさず、両手で腰をがっしりと掴む。
輝美はまさかの一大事に、驚きを隠し切れず、困惑する。


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