
第三十五章 毒牙 七話
「残りの日数を考えると、練習を優先するより、こう言うコミュニケーションを重視した方が選択としては良いのかもしれませんね」
それを微笑ましく思いながら見ていた達樹。
「ええ。人生は一度きりです。結果以上に、思い出と言うやつの方が、人間にとっては後の財産になるかもしれませんしね」
豪真は人としての在り方を思い返すかのように、切なげな眼を理亜たちに向ける。
そんな微笑ましい空気の中、達樹だけが、顔色がどことなく暗かった。
その訳とは?
練習後には、皆で食べに行く事が定番となっていた。
主に豪真が支払う。
行く度に、少しムスッとした顔になる豪真だった。
次の日、学校が終わると、すぐに砂川体育センターで練習が始まる。
すると、練習してから一時間後の午後三時。
「あれ? 天木さん?」
「邪魔するよ」
近所のコンビニでもぶらっと立ち寄ってきたかのような由紀子に、一同は練習する手を止める。
「みんな! 一回集まってくれ!」
豪真の声に理亜たちは豪真たちの元に集まる。
「天木さん、お久しぶりですね。この前の試合では貴女の助言が、雌雄を分けたと言っても過言ではありません。御見それしました」
「はっはっはっ。温厚なあんたに爪痕を突き立てた所で、嬉しくもなんともないがね。やっぱり憎たらしい生意気なガキんちょに灸を据える時が一番爽快さ」
達樹と由紀子はフレンドリーに話し合っていた。
「豪真さん。何で今日は天木さんが居るの?」
「それはだな、残り少ない練習期間、由紀子さんにご指導願おうと思ってな」
「天木……由紀子……。あっ! 元プロバスケットボールの天木由紀子さん⁉」
豪真の言葉に、何か思案していた智古は、ハッと、驚くようなそぶりを取る。
「なんだい、そんな昔の事知ってる子供が居たなんてね。あんた、中々酔狂じゃないか」
由紀子はニヤニヤ笑みを浮かべていた。
「確か、四十年も前に、若干二十二歳にして、全日本代表のエースだった。けど、二十三歳になる前、電撃引退した、伝説の人」
智古は、度肝を抜かれたかの様なリアクションで解説していく。
「そんな人が、何で私たちに指導を?」
「なに、あの小生意気な小僧に一泡吹かせたくなってね。それだけさ」
「小生意気な小僧?」
由紀子はユニークな仕草で淡々と言うが、理亜たちは首を傾げる。
「そんな凄い人にバスケ教えてもらうなんて♪ テンション上がってきましたね」
聖加がワクワク気分ではしゃぎ気味だった。
「先に言っておくけど、生半可な気持ちじゃ付いていけないよ」
どこか人を弄ぶ様な意地悪い目で理亜たちを見る由紀子に、一同は生唾をごくりと飲み込む。
「でもさ、後七日足らずでできる事なんて限られてないか?」
「確かに」
奏根がふとした疑問を口にすると、それに首肯する順子。
「まあ、即席に近い形だけどね、始める前にこれだけは言っとくよ。アサルトハイドチームの選手は、四人が、エクストラロードを使える」
「「えっ⁉ 四人も⁉」」
由紀子の爆弾発言に驚愕する理亜たち。
「だとしたらまずいよね?」
「はい、私たちのチームでエクストラロードを使えるのは理亜さんと芙美さんの二人だけですし」
エノアと加奈が落ち着かない様子を見せる。


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