
第三十五章 毒牙 八話
そこで奏根が。
「こらふしだら女、まさかと思うけど、今エクストラロードを使えるかって聞いたら使えるか?」
まるで、マナーの悪い子供の首根っこでも掴んで、圧をかけるやんちゃなお母さん口調の奏根に、理亜はと言うと。
「えへへへへ……使えない」
理亜が照れ笑いしながら、包み隠さず、暴露すると、由紀子を除いた全員がズッコケる。
「まあ、使えなくても問題ないよ。今はね」
「え?」
由紀子が悪魔的な笑みでそう言うと、理亜はどこか悪寒が走る。
そして、猛特訓がスタートする。
「クソ――! なんでふしだら女だけーー!」
「仕方ないじゃん! 私だって好きでやってるわけじゃないんだから!」
キャンキャン喚く中、奏根たちはランニングマシーンで走らされていた。
しかも、時速二五キロで。
それが既に二時間は経過していた。
「ホラよそ見すんじゃないよ」
「はあーい」
由紀子と理亜はと言うと、隅っこで何かをしていた。
それは、由紀子が片手に猫じゃらしを持って、理亜の前でチラチラ動かし、それを掴み取ると言う訓練。
「ねえ天木さん。なんでこれがエクストラロードを使えるようになるための特訓なの?」
納得がいかない様子の理亜は曇り顔で口にする。
「簡単な話さ。この特訓は、五感をフルに働かせるには持って来いだからね。エクストラロードは感覚を研ぎ澄ませて発動できる代物だ。だからこそ、あんたも集中して励みな」
由紀子は当たり前の事を口にしているかの様な感じ。
半信半疑ではあるが、とにかくがむしゃらに取り込んでいこうと理亜は決意した。
その頃、奏根たちはと言うと。
「も、もう、限界です!」
聖加が音を上げ、足を止めてしまい、ランニングマシンのローターに足をもつれ、コートの下に突っ伏せてしまう。
「わ、わたしもー」
続々とリタイアしていく奏根たちは、聖加と同じく、ローターに抗えず、足を止めたせいで、後ろに下がり、俯せでコートの下に突っ伏せてしまう。
「中々シュールな光景だな」
豪真は、その光景を仏頂面で見ていた。
「やった!」
「お、やるじゃないか」
理亜はようやく猫じゃらしをつかめる事が出来た。
「ねえねえ、これで私エクストラロードを自由に使えるかな?」
少々はしゃぎ気味で、エクストラロードを使えるか試みる理亜。
しかし、便を踏ん張るかのように力んでも、一向にエクストラロードを扱えるようには見えていなかった。
「そんな簡単には使えないよ。それにこれはまだ第一段階の特訓だ」
「え⁉ まだあるの?」
「ああ。次はこれで猫じゃらしを掴んで見な」
由紀子が淀みなくそう言うと、懐から出したのはタオルだった。
そのタオルを、理亜の目に巻き、目隠しをさせた状態にする。
「えーー! ただでさえ動きが分からなかったのに、今度はこれ着けて⁉ 無理に決まってるよ!」
理亜は少し自棄気味でになっていたが、由紀子は気にせず「ほら、頑張んな」と言うと、理亜は、トホホホ見たいな落ち込んだ様子で再び特訓を再開する。
「よし、皆。これから三x三の練習試合を始めるぞ」
「う、うそでしょ」
「はあー、はあー、あ、あのひと、おにすぎる」
完全にガス欠状態の奏根たちに対して、豪真は更に鞭を打つ。
「私を恨むな。恨むなら由紀子さんに」
「はっはっはっ」
豪真が今の内に火の粉を払うかの様に、奏根たちの抗議に抗うかの様に、奏根たちの鬱憤を由紀子に丸投げすると、達樹はおかしくなり、笑い始める。
しかし、そんな事に突っ込む余裕が無い奏根たちは、渋々練習試合をする事に。
理亜は、嘆きながらダメもと見たいなノリで、猫じゃらしを掴もうとしていたが、一向に掴めずにいた。


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