
第三十六章 解放された漆黒の鎖 二話
三分も経たず、救急車がやってきた。
そこで、タンカーで救急車に乗せられる被害者の女性を心配した面持ちで見ていた善悟が、ふと何かに気付く。
「……もしかして」
何かとんでもない事に気付いた善悟は、血相を変えて先程、来た道を急いで戻る。
「お、おい! 善悟⁉」
善悟の予想できなかった行動に一驚する輝美は慌てて追いかける。
救急車の救命隊員は「ちょ、ちょっと!」と呼び止めようとするが、二人はあっという間に行ってしまった。
「どうしたんだ善悟⁉」
善悟に追いついた輝美は、並行しながら走っていく。
「さっきの黒いフードを被った女だ! あいつ、雪も降ってないのに、フードを深く被ってた! おまけに、レインコートのポケットに手を突っ込んでた! 返り血を浴びないように着ていた可能性があるし、血まみれの手を、ポケットに入れて隠してた可能性もある!」
「お前にしては冴えてるじゃねーか」
「馬鹿言ってんじゃね! 俺はこう見えて砂川県警、随一の頭脳派なんだぜ!」
張り詰めた空気の中、少し善悟をからかう輝美。
善悟は決め顔で自分の顔を親指で指さす。
走っていると、喫茶店を見つけた輝美と善悟。
「おい輝美。ここに血痕の跡がある」
「ああ。恐らく返り血が凄すぎて、ポケットに手を入れてても、染み出て垂れ落ちたんだろ」
その血痕が続いた先は、珈琲店の喫茶店だった。
額からの冷や汗を拭いながら、慎重に店内に入る、輝美と善悟。
「いらっしゃいませ」
すると、普段通り営業している喫茶店の男性スタッフが丁寧に挨拶をしてくる。
店の雰囲気はレトロな感じで、木材を主に原料としている木造と言った感じ。
椅子もテーブルも木材でできている様子だった。
「ここに黒いフードを被った女は来なかったか?」
「ええ。先程入店しましたが、それが何か?」
輝美が深刻そうな表情で口にすると、少しびくつく店員。
「俺たちはこう言うもんだ。少し店内を物色させてもらうぜ」
「え! え、ええ。さ、先程の女性なら、おトイレにい、行きました」
善悟が警察手帳を広げて見せると、店員は驚愕した後、オドオドしていた。
そのまま、トイレに向かって行く二人。
客たちは、空気で察したのか、輝美と善悟をじっと見ていた。


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