
第三十六章 解放された漆黒の鎖 三話
その時、理亜たちは、練習を終え、帰宅途中だった。
「あーあ。今日もしんどかったぜ」
「うん。でも天木さんは私たちのために一肌脱いでくれてるわけだし、期待に応えよう♪ 辛くても、やっぱりみんなとバスケ出来て最高に楽しいし」
奏根がぐったりしていると、聖加が疲れ知らずの様に、スマイルで答える。
「だね。僕たちにあそこまで真摯に向き合ってくれる人たちが居る事態、貴重な僥倖なわけだし、ただがむしゃらにやっていくだけだね」
エノアも笑みでスッキリした面持ちで口にする。
「ねえ、今日はあの喫茶店で食べようよ」
「良いですね」
「お前は金もないのに良く言えるな。どういう神経してんだ」
理亜たちは、先程、輝美たちが捜査している珈琲店の喫茶店に入ろうとしていた。
珈琲店と言っても、食事なども提供しているため、地元では雰囲気も味もどちらも楽しめる喫茶店として有名でもあった。
そんな喫茶店が、今、悲劇の舞台になる事も知らずに。
トイレへと、ゆっくり入っていく輝美と善悟。
二人は既に拳銃を手にしていた。
アイコンタクトで頷き合うと、ロックされているトイレの扉に勢いよく蹴りを入れる。
バコン!
「警察だ!」
「きゃっ! な、なに⁉」
輝美と善悟が銃口を向けた先に居たのは、用を足していた二十代の女性。
服装が全く違ったが、ただレインコートを脱いでいるだけかも、と思った二人は険しい顔を女性に向けながら「今すぐズボンを履け! そして両手を上げてゆっくりこっちに来い!」と語気を強め口にする。
「そ、そんな、わたし、なにも、してない」
明らかに一般人の怯えた反応に、輝美と善悟もどこかおかしいと思う。
そこで、用を足していた女性は、仕方なく、何も拭かず、パンツとスカートを履くと、両手を上げ震えながらゆっくりと二人に近付く。
「凶器がないか調べてくれ」
「ああ」
輝美の指示ですぐに動く善悟は女性だろうが構わず、ポケットや、手にしていたカバンを知らべてみたが、どこにもナイフらしきものは無かった。
「凶器なんてないぞ」
「――なに?」
「貴方たち、何か勘違いしてるわ! 私はここの従業員で、仕事終わりにトイレに寄っただけよ!」
女性の必死の形相から嘘をついている様子に思えなかった二人は、何か重大な見落としがあったのでは? と脳裏を過る。


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