
第三十六章 解放された漆黒の鎖 七話
明人は、鋭い殺気を放ちながら、狂気的な殺意を向けてくるツエルブに立ち向かう。
「いいね! いいね! この躍動感! 全身の血が沸騰するぜ!」
ツエルブと明人は、ナイフで牽制し合う。
明人が縦横無尽にナイフを振ったり、ツエルブが変化をかけて、何度も突き刺してくる。
奏根と順子は呆気に取られながら見ている事しか出来なかった。
初めて目の当たりにする狂気同士の衝突。
それは見たくもないこの世の波乱。
だが、目を背けるわけにはいかなかった。
恩師を殺された。助けられた。
その思いだけが、今、奏根と順子を、この場所に繋ぎ止めている。
ツエルブはラリッた様な形相で何度も攻撃を仕掛けていく。
まるで姿を消したかの様な、足さばき。
神出鬼没に現れては、背後から横から、ナイフで一突きにしてくるツエルブ。
しかし、明人はそれを紙一重で躱す。
後ろに目が付いているかのような俊敏な動き。
「フヒハハハハッ! お前のその動き、どう考えても殺し屋のそれだ! 同類であるからこそ、俺の動きを読める!」
ツエルブは躱され続けられても、一切の動揺は見せない。
片や明人は、隙を見つけては、ナイフを振るう。
その刃はツエルブの薄汚れた服を掠める。
それを肌で確認したツエルブは、明人から距離を取る。
「……手慣れすぎてる。手腕、手練手管。その全ての技を暗殺に収めた奴だけの義。 ……まさか」
独り言の様にブツブツ言い始めるツエルブ。
張り詰めた意識から導き出した答えにたどり着いたツエルブは、悦に入る。
「お前だな……スフィア。いや、千川明人」
見破られた事にも一切、心が揺るがない明人だったが、ツエルブの声が耳に入った奏根と順子「スフィア? 千川明人?」と口にする。
ツエルブにバレるならまだマシだが、流石に理亜のチームメイトにバレるのはまずい。
明人は、余り長居するのは得策ではないと考え、一気に勝負を決めるため走り出す。
「フヒハハハハッ! そうかそうか! お前はようやく俺と殺り合う理由を見つけたんだな⁉ 嬉しいぜ! 今日でお前の息を殺し、美酒で酔いしれようとしようじゃねーか!」
まるで、生きる目的を見つけたかのように、ここに来て、最大限の歓喜に満ちるツエルブ。
明人の縦に振られたナイフを横に躱すツエルブ。
しかし、そこで振り切らず、切っ先を横に向け、横に振るう。
ズバッ!
「うぐっ!」
ツエルブの胸を捕らえたナイフ。
その胸からは、傷がハッキリ出来て、衣服は勿論、血で滲み出てくる。
明人は勝機と判断し、一気に距離を詰める。


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