クリーチャープレイバスケットボール 第三十六章 解放された漆黒の鎖 八話

第三十六章 解放された漆黒の鎖 八話

 ツエルブの懐に入り、ナイフを一点集中で腹へ突き刺す。

 「くへっ!」

 野蛮な笑みでツエルブは、明人の攻撃を避けなかった。

 明人の攻撃を受けきると、ツエルブは明人の手にしているナイフの手をがっしりと握る。

 「くっ⁉」

 「仲良く死んで飲もうぜ。明人」

 明人が動揺すると、まるでツエルブは幼子をあやす様なおっとりとした笑みで手にしていたナイフで明人の頸動脈を斬ろうとした。

 しかし、ツエルブのその暖かいと思えるような目の奥底では、ハッキリと、邪が蠢いていた。

 絶体絶命のピンチに、救いの手が訪れた。

 ドカっ!

 「なにっ⁉」

 突如、ツエルブを横から弾き飛ばし、押し倒す一人の黒いスーツを着た男。

 「警察を舐めすぎだ。大衆の面前で良く粋がれるな、この下衆ヤロー」

 なんと、颯爽と現れたのは、輝美だった。

 そこで、明人は直ぐに行動を起こす。

 脱兎し、その場を後にした明人。

 「ちっ、流石にあいつまでは捕まえられないか」

 輝美は、ツエルブの後ろに手を回し、手錠をかけながら悔しさを口にする。

 「助かったぜ」

 「全然、動けなかった。息してるのか分かんないくらい」

 奏根と順子はその場でペタリと膝を地に着ける。

 腰が抜けたようだ。

 「ん? お前は?」

 「あっ! あの時の不審者!」

 「誰が不審者だ。それにしてもこの前は良くやってくれたな。お陰で手帳を屋根から取る時、団地の大家に二時間もぐちぐち言われたよ」

 「へん。そりゃどうも」

 憎まれ口のぶつけ合いを目にした順子は呆れながら笑っていた。

 「まあ、お前の素行は、既に俺が署に喧伝しておいた。ありがたく思えよ。この先、進学の内申に響くだろうが良いよな?」

 「てめこのやろっ!」

 落ち着きながらも、まるで皮肉を口にする様な声音の輝美に対し、奏根は十八番のギャグマンガの様なキレっぷりを見せる。

 どうやら、この前の北光団地での件で怒ってないように思えたが、大家にお灸を据えられて考えが変わり、それをまだ根に持ってるらしい。

 「んで、お前が連続殺人鬼の犯人って事で良いんだよな? まあどの道、署で洗いざらい吐いてもらうがな」

 ツエルブを威圧する輝美。

 しかし、ツエルブは逮捕されたにもかかわらず、ヘラヘラ笑っていた。

 どう見ても狂ってるとしか言いようがない。

 輝美は、この場での事情聴取は問わず、黙って警察と救急車を呼んだ。

 程なくして、救急車と警察が現場に到着し、ツエルブを護送していった。

 救急車に乗せ、同乗する輝美。

 去り際に、「お前たちの聴取はまた別の機会な。今度は逃げるなよ」と辟易とした口調で輝美が口にすると、奏根は「へいへい」と不機嫌な面持ちで口にする。

 しかし、順子だけが、亡くなった達樹の事を思い出し、静かに泣いていた。

 涙腺から垂れる涙を見た奏根は、優しく順子を抱き寄せる。

 やるせない気持ちを押し殺しながら。

 そして、次の日。

 達樹の葬儀が行われた。

 参列者には、達樹の遺族たちはもちろん、理亜たちも居る。

 その中には銅羅の姿もあった。

 通夜が行われている間は、坊さんがお経を唱える声と、涙を流し、嗚咽を漏らす声しか聞こえなかった。

 遺族の人たちだけでなく、ダイオンジチームの皆が涙を流していた。

 (ちょう)()の時に銅羅は、達樹の遺族たちに、「本当に惜しい人を亡くしました。達樹さんは私の道しるべでもあり、戦友です。心からお悔やみ申し上げます」と丁寧に口にする。

 達樹の奥さん、光さんは「銅羅ちゃんもすっかり立派になったわね。やんちゃだったあの頃が懐かしいわ」と微笑ましく口にしてくれた。

 それを聞いていた豪真は、どこか表情に雲行きが増す。

 葬儀が終わり、各々が解散する時に、豪真が銅羅に近付く。

 「なあ銅羅。お前、振り向く気はないのか?」

 儚げな瞳で口にする豪真。

 闇から脱却して欲しいと言う豪真の思い。

 だが、銅羅は振り向かず、帰る方向にだけ目をやる。

 その表情は、どこか憂いでいる様な感じが伺えた。

 「……豪真さん。振り向くには私の首の綛が重すぎます。価値観、概念、信念。その全てが今の私なのです。失礼します」

 それだけ口にすると銅羅は去っていった。

 眉を顰め見届ける豪真。

 そして、葬儀は終わった。

 失った命は勿論、帰ってこない。

 それは子供である理亜たちも酷く痛感している事。

 今でも、達樹の暖かな笑みが脳裏に何度も過る理亜たち。

 ダイオンジチームは最後まで泣いていた。

 今にでも雪が降ってきそうなほど、風も冷めきっていた。

 冷たい心に追い打ちをかける様な風を肌で受けながら、理亜たちは優勝する事を心の底から願い、決めた。

 亡くなった達樹を伴うにはこれしかないと思ったからだ。

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