
第三十八章 歴戦の覇者、参上 三話
「賞金だって無かった。あれはどちらかと言うと、私には栄光でも名誉を手にいれたかったわけじゃない」
「じゃあ、何だったんです?」
「ん? まあ、強いて言うなら……いや、止めておこう」
「「ええーー」」
由紀子がキッパリとそう言うと、理亜たちはショックのあまり愕然と肩を落とす。
「まあ、由紀子さんからしてみれば、お前らはお前らなりの答えを見つけろ。そう言う事だ」
そこで、豪真がどこか嬉しそうに口にする。
由紀子も、ヘラヘラ笑い出した。
意外と豪真と由紀子は似た者同士なのかもしれない。
と言うより、早々、大人が子供に答えを教えるのは教育上よくない。
だから敢えて、理亜たちに課題を出したのだ。
課題と言えるほどでもないだろうが、これは由紀子の願い。
過去に取りこぼした何かを理亜たちに見つけてほしいと言う思い。
「うん、分かった。絶対答えを見つけて見せるね」
理亜が満面の笑みでそう言うと、豪真と由紀子も笑みを浮かべる。
そして会場に着いた。
いつもの居酒屋ではなく、どう言うわけか地下鉄の駅だった。
「あれ? どうして地下鉄に?」
「会場はこの先だ」
豪真がそう言うと、地下を降りていく。
理亜たちも続いていくと、豪真が続く階段の途中で、壁に手を触れる。
「指紋認証確認。ようこそ。シャルトエキゾチックの皆様」
機械アナウンスが階段中に響くと、まだ続くはずだった階段の先が別の番組をかけたみたいに、テレビの様に切り替わる。
横にスライドしていった目の前の駅に続く道が変わり、どう言うわけか、両開きの扉が現れた。
「「えっ!」」
「決勝戦の舞台はこの先だ」
理亜たちが一驚する中、豪真と由紀子が堂々と扉を開け中に入っていく。
恐る恐る後に続く理亜たち。
すると、中は一回戦から入場していた景観とあまり変わらず、フロントらしき場所に足を踏み入れた。
受付には二人の綺麗なお姉さんが並んで立っていた。
そして、何時も通り受付を済まし、控室に行こうとする理亜たち。
人口AIのお姉さんが案内していく最中、前には銅羅が居た。
「こんばんは」
涼しい表情の銅羅に豪真が「今日はよろしく頼む」と威厳良く口にする。
「なんか既に試合が始まってる感じがするよね」
エノアが加奈にそう耳打ちすると「はい。何せこれから決勝を行うチームの監督同士の接触ですからね。第三者から見たら生唾を呑む光景ですよね」とヒソヒソ話す加奈。
確かに、目の前で火柱が舞い上がっているかの様な光景に、理亜たちも緊張が高まる。
「はい。こちらこそ。それから天木さん。お久しぶりですね。彼此二十年前でしたね。最後に挨拶を交わしたのは」
「はあ? 何言ってんだい。私が離れるのを見てギャンギャン泣きわめいていただけでなく、私に抱き着いてまでどこにも行かないでーなんてみったくなく言ってたのはどこの誰だい?」
由紀子は意地悪そうな笑みでそう言うと、理亜たちは今一飲み込めなかった。
あれだけ大人感をしている人が、由紀子と離れるのを泣いて駄々をこねていた、と思うと、先程の豪真との挨拶する時の威厳が、どこかに行ってしまった。
すると、銅羅は頬を赤くし、軽く咳払いして気を紛らわせる。
「オホン。む、昔の話です。それより、良いのですか? 教え子が目の前で敗北する姿を真の足りにするんですよ? その覚悟が、もうあると?」
銅羅は仕返しでもするかの様に、今度は由紀子を煽る。
「ふん、安心しな。そこまで青春する年でもないんでね。それに、勝負ってのは勝ち負けで雌雄を決するものじゃない。心のありようだ。まだ、勝敗に拘ってんのかい、あんたは?」
どこか機嫌悪く言う由紀子。
すると、銅羅は鼻で笑う。
「正に、弱者が吐く世迷言ですね。昔の貴女は常に、力を誇示する存在だった。栄えある栄光を支柱に収め、私物化でもするかの様に独占していた頃とは思えませんね。歳とは身体だけでなく、心までも脆弱にしてしまうとは。やはり年は取りたくない物です」
完全に由紀子を揶揄する銅羅。
それを見ていた理亜は、ついムッとなり、思わず口にしてしまう。
「そんな事ないです! 勝敗が大事でもなければ、力を誇示する必要もない! 人は生きて、大切な人といる事に異議を見出せるんです! バスケも同じです! その年になってそんな事にも気づけないなんて! 貴方みたいな大人には、絶対なりませんからね! フン!」
理亜はプンプン怒りながら銅羅を横切っていく。
「子供にああ言われて、大人としてどうなんだ? 銅羅?」
少し勝ち誇った顔で銅羅を横切ろうとする豪真。
理亜たちは先に行ってしまった。
「どうもこうもありませんよ。弱者の言葉には力がありません。もし千川さんが強者となった暁には、先程の言葉を糧として生きていく事を誓いましょう。では」
銅羅は落ち着きのある様子でそう言うと、理亜たちとは逆方向に向かって去っていく。
豪真は深い溜息を吐き、理亜たちの後を追って行った。


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