クリーチャープレイバスケットボール 第五章 遮る壁 一話

第四章 遮る壁 一話

 時は遡り、六日前の月曜日、午前十一時。

 サンワドーと空知太小学校が見渡せる歩道で、二人の刑事が捜査していた。

 九月にも関わらず、蒸し暑い日だった。

 「昨日、殺されたのが弭(はず)間(ま)孝(たか)之(ゆき)。五十五歳。大手企業の石油会社、社長。四十歳の奥さんと、十七歳の息子との三人家族」

 警察手帳を見ていたブロンドの髪の短髪の目がキリっとした二十七歳の刑事、久(く)保(ぼ)輝(てる)美(み)が真剣な面持ちで朗読する。

 交差する車のエンジン音を聞きながら事件を捜査していた。

 「心臓を一突きにされたんだよな? 今までと同じように?」

 第三者が聞いたら首を傾げる発言をしたのが、黒髪の天然パーマで少し気の抜けた顔つきをした輝美と同じく二十七歳の刑事、片(かた)句(く)弐(に)善(ぜん)悟(ご)。

 「ああ。過去にも類似する事件が多発している。大体十一カ月前からだな。大手企業の社長や副社長、幹部クラスの人間が弭(はず)間(ま)と同じ手口で殺されている」

 輝美は肩から息を吐くように大きな溜息を吐く。

 その溜息は、今まで起きた事件の加害者を逮捕出来なかった自分への情けなさと、劣等感の様な物を感じたからだ。

 「これって同一犯だろ?」

 「この類似の事件だけはな。鑑識によると、死体の心臓の傷口から凶器はナイフだと断定されている。刃渡り五センチ程のな」

 立ち入り禁止の中で遺体となっていた弭(はず)間(ま)が居た後をチョークで描かれたマークを見ながら、二人は訝しい目を向ける。

 善悟は顎を摘まみ何かを思案していた。

 「にしてもよ。犯人はどう言うつもり何だろうな。ご丁寧に、自分が同じ殺人をしてます。何て主張する様な謀殺しておいて?」

 「さあな。自信の表れか、ただのイカレタ殺人鬼か」

 二人は苦悶の表情で眉唾を飲む思いで時を貪られているような感覚だった。

 ここまで事件が起きていて一向に証拠が出てこない。

 「証拠を探ろうにも、手がかりゼロだもんな。この十一カ月」

 善悟は不甲斐ない自分を後ろめたく思うようにぼそりと言う。

 「とにかく落ち込んでても仕方ない。同一犯の犯行で殺された遺族に報いるためにも」

 「あ! それ聞いて思い出した!」

 「どうした急に?」

 消沈になりかけている善悟を鼓舞させたつもりが、何故か何か大事な事でも思い出したかのように飛び跳ねる善悟。

 輝美は善悟の反応が気がかりで心配しながら聞く。

 「弭(はず)間(ま)の奥さん見たか⁉ 四十代には見えないよな? どうみても二十代前半だよ。しかもその奥さん、弭(はず)間(ま)が死んですぐに、清々した、何て口にしてたよな? 他の会社にも相当な恨みを買ってるみたいだし、あいつが殺されても悲しむ人間なんていやしない。栄(えい)耀(よう)栄(えい)華(が)の特権てか?」

 「はあー。深慮して損したぜ」

 揚々と語る善悟をみて呆れながら呟く輝美。

 「何か言ったか?」

 呆けた表情で輝美にそう聞く善悟。

 「いや何でもねえよ。それよりまだ気がかりな事件が残ってる」

 話題を切り替える輝美。

 「ああ。三日前は腹部や心臓をめった刺しにされた事件だろ? その事件だけでも五十件は超えてるしな」

 「こいつが使っているナイフも刃渡り五センチ程だが、心臓を一突きにする犯人と同一犯なのかは今の所、不鮮明だ」

 「だな、あとそのめった刺しにされた被害者の共通点が全員義足や義手を付けていたんだろ? しかも殺された時にはそれが取り外されていたとか」

 「そうだな。それと殺されてはいないが、殺人未遂で足や腕をめった刺しにされた被害者も多数いる。おまけにその被害者が今度はめった刺しにされて文字通り殺されたなんて事件もな」

 次から次へと難題な事件が増え、輝美や善悟だけでなく、砂川警察署が頭を抱えていた事件でもある。

 滝川警察署とも連携しているが、それでも手がかりが掴めない状態なのだ。

 「駄目だ。やっぱり頭がこんがらかってくる」

 がっくしとした様に俯く善悟。
 
 「とにかく順番に処理していくしかない。それに過去に傷害事件で逮捕された前科持ちも洗い出している真っ最中だしな」

 「じゃあ俺らもその捜査に合流するとしますか。ここでこれ以上、脳をしわくちゃにするよりましだしな」

 「善は急げだ。目撃者も居なければプロの犯行に近い事件を止める手立てが今の所それだけだしな。行くぞ」

 「おう」

 二人は希望の湖を見つけ出すために、目に生気を宿し、砂川警察署に車で向かった。

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