
第四十章 見切れるか? 四話
一流のプレイヤーなのは間違いないが、周りと比べると何か足りない。
エノアは日々そう思っていたからこそ、練習に打ち込み、自身のバスケや人としても向上したかった。
「あんたは、よく周りを見てる。そう言う人こそ、観察力や分析力が物を言うんだ。あんたにしかない物はちゃんとあるよ。だからいつも通り、相手の考えや動きに寄り添いな。そうすれば自ずと答えは見えてくるもんだ」
元気づけようとする由紀子に、エノアは目をウルウルさせ、「はい!」と力強く答えコートに戻る。
「にしても本物の天才はやっぱ違うな~」
奏根は意地悪っぽい笑みで理亜に近付きながら口にすると、「もう、奏根ちゃんの意地悪!」とぷんすか怒る理亜だった。
そして、理亜たちのボールから始まり、再び試合は再開される。
エノアにパスが回ると、エノアは敵チームのコートにドリブルして向かって行く。
立ちはだかるは飛翔。
獲物を捕獲でもするかのような、鋭い眼力。
エノアはチェンジオブペースでスピードに緩急をつける。
すると、近くまで居た飛翔が、またもや身を少し丸くさせる。
居合術の構え。
今にでも剣を抜いてくるような気迫を感じる。
エノアは、まずいと思い、バックチェンジでボールを後ろに隠すように移動させる。
しかし、右手から左手に持ち替えようとした瞬間。
パン!
またもや飛翔は居合斬りの様な身のこなしでエノアを横切りながらボールをカットする。
ギョッとするエノア。
すぐに飛翔の前に回り込むエノア。
気迫あふれるエノアのディフェンスだが、飛翔はフロントチェンジで右手にボールを持ち替えると、エノアも右に身体が傾く。
その時だった。
またもやいつの間にかシュートを左サイドからレイアップで決めた飛翔。
エノアは面を食らう。
「また!」
順子も仰天する。
すぐに理亜がエノアに近付く。
「大丈夫? エノアちゃん」
「うん、大丈夫」
少し不安な表情をするエノアだが、嘆いている暇はないと判断し、気持ちを切り替えオフェンスに専念する。
「エノア。近くに俺たちも居る。まずいと思ったら、すぐにパスを出せ」
「うん、ありがとう」
奏根はエノアの首に腕を回し、そう神妙な面持ちで言うと、エノアは躊躇わず口にする。
聖加がエノアにパスを出すと、ゆっくりと敵コートにドリブルして向かって行く。
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