
第四十章 見切れるか? 五話
聖加がエノアにパスを出すと、ゆっくりと敵コートにドリブルして向かって行く。
エノアは少しづつ掴めていた。
飛翔の消えるオフェンスは、常にレイアップシュート。
イリアスが理亜と対戦した時も同じだった。
ディフェンスではある程度、近くないと、あの明鏡止水、抜刀、と言うスキルは使ってこない。
もう少し判断材料が欲しかったエノアは、ハーフコートにもついてないのに、ジャンプシュートしようとした。
まさかのアクシデントに驚き、透かさずエノアに向かって行く飛翔。
しかし、誰もが、あの位置でシュートしても入るわけがないと思っていた。
ましてや、シュートを打てたと言っても、ペナルトギアの性能だけで、ジャンプすればブロックされてしまう。
故に、スクリーンは必須。
だが、エノアはシュートと言うよりも、片手でボールを投擲するかの様に、ある場所に狙いを定めていた。
そこに、力強く投げたエノア。
その先は、右サイドのアウトラインに居る聖加にだった。
聖加は右サイドのアウトラインの空中で、エノアから放たれたボールを、バレーのスパイクの様に叩き付ける。
豪速球を超えるスピード。
由紀子の猛特訓に耐えただけあって、息もパワーもスキルも精錬されていた。
順子がゴール下で、ジャンプしようとする知留をスクリーンで飛ばせないようにする。
見た目がかなり細いのに、パワーは中々だった知留。
油断ならないセンターと見受けた順子は、一切の隙など見せない。
何とかポジションの奪い合いで、最終的にはジャンプさせずにでき、エノアと聖加のコンビネーションシュートは見事決まる。
三対六で負けてはいるが、第一クウォーターは、まだ五分以上ある。
「よしよし」
ようやく点が取れたことに安堵した豪真は称賛するように手を叩く。
「ごめんショウちゃん。ブロックしたかったけど止められなくて」
あたふたしながら、知留が飛翔の所に向かって行く。
「お主が気に病む必要はない。あれは私の落ち度だ。お主はお主で、監督の指示を全うしろ」
「う、うん」
飛翔は凛々しい面持ちで淡々と口にすると、知留は動揺は残るが頷く。
どことなく知留は、昔の加奈に似ていた。
飛翔は、武の心得でもあるかの様な、武士の佇まいで、オフェンスに気持ちを切り替える。
飛翔がドリブルで理亜たちのコートのスリーポイントラインにまで近付いてきた。
エノアは厳戒態勢でディフェンスを取る。
またもや飛翔は左斜め前に出て、強引にフリースローラインにまで近付く。
エノアも必死になって付いていく。
すると、何の前触れもなく、左に手にしていたはずの飛翔のボールが、右手に持ち替えられ、右サイドから音もなくエノアを抜くと、またもやいつの間にかレイアップを決められていた。
順子も何が何だか分からず、ゴール下に居たにもかかわらず、点を許してしまった。
「音もしない足音とボール、フリースローラインになってから音速のギア上げ、レイアップシュートしか打たないわけ。……もしかしたら」
エノアは落ち込んでんどいなく、しっかりと分析していた。
そこから導き出された憶測に、半信半疑である事を確かめようとする。
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