
第四十章 見切れるか? 六話
エノアがボールを持って、とにかく、飛翔に近付かない様、細線の注意を払う。
しかし、飛翔はエノアの狙いを予期していたかのように、ハーフコートにもエノアが近付いてないのにも関わらず、エノアに走って近付く。
エノアは、まずい、と思い、左サイドに居た理亜にパスを出す。
しかし。
「明鏡止水、抜刀! 一の太刀!」
飛翔は音速を超える速度で、エノアのパスをカットし、ボールを手に取ると、理亜たちのリングに向かいドリブルして行く。
エノアと理亜がダブルディフェンスで飛翔を迎え撃つ。
飛翔はスリーポイントラインで止まると、流石に、無理にでも斜め前に進めず、諦めたのか、すぐ横に居た賀古にパスを出す。
賀古はパスを受け取ると、スリーポイントシュートを打った。
「させるか!」
バン!
しかし、背後から順子が追ってきていて、賀古のシュートをブロックした。
まだ生きているボールを必死に追う奏根と聖加。
「ジャスティス、チョーープ!」
「ぐへっ!」
なんと、奏根の背中目掛け、腕をクロスし、突っ込んできたのは木佐だった。
なんとも間の抜けた必殺名に度肝を抜かれる一同。
「ピー――! 赤十三番、テクニカルファール!」
「うげっ!」
審判のお兄さんが、そう叫ぶと、木佐は驚く。
しかし、銅羅たちは、とても落ち着いていて見ていた。
「ハハハッ。どうやら木佐さんは気持ちの高ぶりをコントロールできていないようですね」
「先程、千川さんたちと会談してから少々不機嫌になっていたので、そのせいでは」
銅羅とイリアスはやんちゃの子供でも見守るかのように微笑み合っていた。
「くそっ、あのヤロー!」
渋々と手を上げる木佐に、怒りが込み上がってくる奏根。
「まあまあ、落ち着いて奏根ちゃん。ほら、気持ち切り替えてこ」
聖加がそう宥めると、ぷんすか怒りながらポジションに着く奏根。
「ねえ理亜ちゃん」
「ん? どしたのエノアちゃん?」
試合が再開される前に、エノアが理亜に耳打ちする。
「え! そうだったの⁉」
「うん、多分だけど」
「……分かった。じゃあ、あの人をあそこまで近づけさせなければ良いんだね」
理亜とエノアが小声で話し終えると、試合は再開される。
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