
第四十一章 ジャスティス 一話
エノアにパスが回されると、透かさず、飛翔がエノアに突っ込んでくる。
走りながら急に前のめりになり、明鏡止水、抜刀が飛び出そうとして来た。
「くっ!」
エノアはまずいと思い、ダブルバックチェンジでボールを隠す様にドリブルすると、飛翔の動きが鈍る。
その隙に、ビハインドザバックパスで左に居た聖加にパスを出すエノア。
「まあ、よい」
てっきり飛翔はカットするかと思いきや、潔い姿勢で、そのボールを見送った。
聖加にパスが回ると、安堵するエノア。
「エノアちゃん!」
「うん!」
ここで聖加がある秘策に打って出る。
聖加は、豪速球でも投げるかのようなフォームで、右サイドに居るエノアにパスを投げる。
あまりのスピードに目を見張る飛翔たち。
すぐにエノアにパスが届くと、エノアはボールを殴りつけ、左サイドに居る聖加に音速に近いスピードのパスを出す。
「あれは準決勝で見せた。ですがスピードが格段に上がっている」
銅羅は眉を顰める。
イリアスたちベンチサイドも、驚愕する。
「ジャスティス・カッット――!」
そこで、ヘンテコなネーミングセンスと動作で、横切るボールを叩きつけようとした木佐だったが、その手は空振り、木佐の失態を目にした銅羅は苦笑いしていた。
そして、左右に往復するボールを最後は、聖加がアウトサイドからスナップを利かせたスパイクで、上から斜め下にかけ、ボールを空中で叩き飛ばした。
叩き付けられたボールは、リングにそのまま貫く様に入っていった。
「ナイッシュー♪」
「順ちゃんもナイススクリーンじゃん」
智古と静香がワイワイ賑わうように、エノアたちにエールを送る。
「ふう。見かけ以上に、タフな張り方してくるな」
順子は先程まで、スクリーンをかけていた知留のディフェンスを軽く称賛しながら、自分たちのコートに戻っていく。
エノアと聖加は満面の笑みでハイタッチする。
これで点数は、六対十。
少しづつ見えてきたアサルトハイドチームの力。
だが、アサルトハイドチームはまだ、随分と余力を残している事を、この時の理亜たちは知らなかった。
残りタイム、四分五十八秒。
遥が、飛翔にパスを出す。
「飛翔、そろそろ私にも攻めさせろ」
「え? あ、いや……」
木佐が急かす様にして、飛翔に近付くと、飛翔は、かなりバツの悪そうなリアクションを取る。
「まずいですね」
「ええ。木佐さんが先程のプレイで刺激を受け、駄々をこね始めるかもしれません」
何かを危惧している様子が伺える、イリアスと銅羅。
「……分かった。だがあまり無茶はするなよ」
「ああ。任せなさい。この次期、政治家候補の私が、彼女らに引導を渡し、キャー、ステキ! と言えるほど、恋焦がさせて見せます」
何か、まずいスイッチでも入ったかのように、間の抜けた表現をする木佐。
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