
第四十一章 ジャスティス 四話
しかし、飛翔は後ろに目があるかのように、フロントチェンジで左にボールを持ち替えると、斜め左に突き進む。
理亜は、フリースローラインのサークルに、絶対にいれさせないために、必ず、飛翔の正面に立つ。
「それではディフェンスの基礎が些かおざなりだぞ」
「え?」
飛翔はクールな面持ちでそう呟くと、チェンジオブペースで緩急をつけ、理亜の動きを一瞬止めると、その刹那、バックチェンジで右手にボールを持ち替え、フリースローラインに足を踏み入れる。
「しまった!」
理亜は危険を感じ、思わず声を上げる。
「飛翔さんの射程範囲です」
銅羅は涼しい面持ちでそう口にすると、飛翔は「明鏡止水、抜刀、二の太刀!」と決め台詞を吐きながら、華麗に理亜を抜き去り、姿や音を消し、レイアップシュートを決めた。
順子は、ディフェンスに回りたかったが、目で追えず、何も出来なかった。
「やったね♪」
「ああ」
知留が満面の笑みで飛翔に近付くとハイタッチをする。
点数は八対十二。
少し話された程度では、理亜たちはめげない。
「エノアちゃん!」
「うん!」
聖加がエノアに声を上げると、パスを出し、再び、エノアと聖加のダブルプレイが始まる。
両サイドからの音速を超えるほどのパス回し。
早すぎて、理亜たちですらボールが見えなかった。
このままいける、と思った矢先。
「パス!」
「えっ⁉ う、うん」
左サイドに居た聖加に木佐が近付き、ジャスティス・マイ・フレンドを発動させる。
聖加は目を真っ白にさせ、少し動揺しながらも木佐にパスを出してしまった。
「「ああ!」」
ベンチに居た智古たちは、悔しそうなリアクションを取る。
「木佐ちゃ~ん。ボ~ル」
遥がねっとりとした声音で木佐にパスを求めたが、木佐は、鼻で笑い飛ばす様にして、遥かの申し出を断り、またもや、独断専行で理亜たちのコートに突っ込む。
奏根が止めようと、ディフェンス体制に入る。
しかし、木佐はまたもや敵であるはずの奏根にパスを出し「パース!」と声を上げると、順子や聖加と同じように、目を一瞬白くさせ、若干、動揺させながらも、木佐にパスを出してしまう奏根。
奏根が我に返る頃には、木佐はレイアップシュートを決め欠けていた。
誰もが決める、と思ったが、またもや、庶民シュートを外してしまった木佐。
「あーー! しまったーー!」
外した事に絶叫する木佐。
順子はリバウンドで取ろうとしたその時。
バコン!
なんと、リングにぶつかり落ちようとしたボールを空中でキャッチし、そのままダンクを決めたのは飛翔だった。
「おのれ飛翔! 私利私欲のために、私の政治家の道を両断する気か⁉」
「いや、私はただ、お前の尻拭いをしただけの事。騒ぐ必要は皆無だ。だからめげず、外していけ。その度に、尻拭いをしてくれる仲間の有難味を噛みしめながら、お前は成長するだろう」
「ムキ――!」
自分たちのコートに戻りながら飛翔にぷんすか怒る木佐。
飛翔は真に受けないように、木佐の暴言を受け流しながら親指を立てる。
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