
第四十一章 ジャスティス 六話
「皆さん。この調子で行けば、必ずや勝機はあります。なのでメンバーチェン……」
「グルルルルッ」
一方、銅羅はアサルトハイドチームのスタメンたちを労う言葉をかけると、メンバーチェンジと言おうと、木佐を見たその時、木佐が、まるで狂暴な野獣が、小動物を威嚇する様に、鋭い目つきを銅羅に向けながら酷く唸り声をあげる。
「……このまま行きましょう」
「やったー!」
圧力に負けた銅羅は、やれやれ、と言った呆れた様子で口にすると、木佐は飛び跳ねるくらい喜ぶ。
「では皆さん。タイムアウトが終わるまで十分な休息を取ってください」
「「はい!」」
ある程度、指示し終えた銅羅は、軽くため息を吐く様にして、ベンチに腰掛ける。
「お疲れ様です」
「いえ、ここで木佐さんをチェンジしてしまえば、私にジャスティス・マイ・フレンドを、行使されかねませんからね」
トホホ、見たいな疲れ方をしていた銅羅。
「それにしても監督。向こうのチーム。飛翔や木佐の技や能力について、把握したのかな?」
代野が理亜たちをじっと見ながら呑気に口にする。
「恐らく。木佐さんの能力は単純明快です。相手を自分の友達と錯覚させ、一時的に友好関係状態になります。第三者からしてみれば、洗脳、と言うありきたりな見解に至りますが、相違があるんですよ。変わって飛翔さんやイリアスさんの、明鏡止水、抜刀は、理解すれば、どうこう出来ると言うものではありません。あれは、相手が近ければ近い程、そのスピードは増します。角運動量に付いては皆さん存じ上げているとは思いますが、対象が近い程、スピードが速く見えると錯覚するんです。逆に遠くから見たら、遅く見える。ですので、対象が近くないと、明鏡止水、抜刀は、効力の三分の二を失います」
「それは向こうも気づいていると?」
淡々と説明する銅羅に、ちょっとした懸念があるイリアス。
「ええ。ディフェンスでの明鏡止水、抜刀は、対象が近ければ、問題ありませんが、オフェンスの場合、対象となる人物が近いのもそうですが、ゴールにも近くなくてはなりません。抜く時には、既に斜め前に跳躍し、その移動分だけで、シュートを決めなければなりませんし、明鏡止水、抜刀は、走るのではなく、飛ぶと言う感覚ですからね。走る時とジャンプする時では、その足を踏むときの力は桁が違います。したがって、最も速い速度の時、つまり跳躍した時には、既に手にボールを持っている状態です。そんな状態では、オフェンスでは勿論、シュートかパスの二択」
「はい。私は勿論ですが、飛翔さんも、オフェンスの際には、フリースローラインにまで、移動しないと、跳躍の関係上、飛んだ分だけしか移動できません。なので、フリースローラインからリングまでが、跳躍の限界なんです」
こればっかりは、と言わんばかりに、少し問題点を殊更にする銅羅。
イリアスも悩ましい問題に眉を顰める。
「十分凄いと思うけどね。私なんて、あれしか出来ないから、羨ましいくらいだし」
少し、元気付けようとさせる代野。
「代野さんは、代野さんで、素晴らしいスキルを持ってますよ」
笑みを浮かべながら代野を称賛する銅羅。
少し、恥ずかしそうにする代野。
「……」
「ん? どうしたの副キャプテン?」
「いや、少しばかり思い当たる樽節があったのだが、恐らく杞憂だろう」
チームメイトの賀古がストローでスポドリをチューチュー飲みながら、何かを警戒していそうな飛翔を気に掛けるが、飛翔は気持ちを切り替える様にして、目を瞑り、精神統一をし始める。
だが、薄目を開け、何故かは分からないが、その目は理亜を捕らえていた。
一体何があると言うのか?
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