
第四十一章 ジャスティス 九話
「パーーース!」
「ッ!」
そこで、急に木佐が奏根にパスを申し出る。
奏根は、ダンクする構えから一変して、左サイドのアウトラインに居る木佐にパスを出してしまった。
「やっぱり、あのエクストラロードは厄介だね」
由紀子が睨みをきかす様にして、呟く。
木佐はボールを受け取ると、なんと、そこから理亜たちのコートに向け、片腕で投げだした。
「ちょっと木佐ちゃん⁉」
「あーー」
遥が木佐の奇行にギョッとすると、知留は、またやった、見たいな諦めたノリでそのボールを見送るしかなかった。
そのボールは、リングに向かって行くのではなく、なんと、観客席に向かって行って、観客の一人の顔面に直撃してしまう。
「赤十三番! テクニカルファール!」
審判のお兄さんが辛辣な表情でコールすると、木佐は「ぐぬぬぬ」と不満を爆発させたい気持ちを押し殺す様に、致し方なく手を上げる。
「なんか、ファイブファール取られそうな勢いだな、あの十三番」
「くそ、あんなふざけた奴にパスしたと思うと、腸が煮えくり返るぜ」
順子が呆れて口にすると、奏根はやけくそ気味になる様な面持ちで怒りを堪える。
順子と聖加が、どんまい、と言って、奏根の背中を優しく叩いてあげる。
「やれやれ、木佐さんにも困りましたね」
「もしかしたらですが、監督はこの事を予期していて、敢えて、第一クウォーターから木佐さんをスタメン出場させたんですか?」
銅羅が少し疲れ気味で口にすると、イリアスが素朴な疑問を問いてみる。
「そうですね。ここぞと言った局面下で、木佐さんを投入するのは、大変危険です。未曾有の危機に直面した方がまだマシです」
冷や汗をかきながら口にする銅羅に、代野が「そりゃあ、危機的状況で駄々こねられて、ジャスティス・マイ・フレンド使われたら、たまったもんじゃないからね」とぶっきらぼうに口をはさむ。
「ええ。なので第一クウォーターで、木佐さんのエクストラロードを消費させ、第二クウォーターでメンバーチェンジさせる予定では、あるのですが……」
「ムキ――! 何よあの審判! 私の技巧を見抜けないなんて! 確かに民衆に痛手を負わせたのは事実だけど。それでも無根よ! だってそうでしょ⁉ 私はこの先、政治家になって治世を享受する日本の大黒柱になる稀有な存在よ! 少しくらい看過してもよくない⁉」
嫌な汗をかきながら躍起になって地団駄を踏み、飛翔に絡む木佐を見ていた銅羅は呆れてしまう。
「いや、お前の論理には穴が幾つかある。一言で表すなら……ば……」
「……ば……何よ?」
獲物を威嚇する様に見てくる木佐の目を少し逸らしながら、どう答えた物か? と頭を悩ませる飛翔。
馬鹿女、と言いかけた所で、のちの事を考えると、試合所ではなくなる、と察した飛翔はその言葉を飲み込んだ。
色々な意味で、木佐は危険な女性だった。
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