
第四十一章 ジャスティス 九話
銅羅は一度タイムアウトを取るべきか悩む。
すると、遥がウインクしながら、銅羅に片手を振り、タイムアウトは取らなくて良いと、待ったをかける。
銅羅は立ち上がろうとしたが、遥の判断を信じ、タイムアウトは取る事はしなかった。
「と、とにかく、猪突猛進のその性格をどうにかしろ。民に渇望して欲しくば、民を窮地に追いやるな。そして好敵手でも見つけて、研磨し、研鑽できる状況下をまず作れ。それが人として成長するにして大切な過程だ」
少し動揺しながらも、最後に、嫌々で答える様にそれだけ言って飛翔はポジションに戻る。
「猪突猛進の性格? 好敵手を見つけて研鑽し研磨しろ? 何を言ってるのよ。もう私は完璧なのよ。これ以上、進化すれば、私は、私でなくなる……」
まるで、中二病が自分に酔いしれる様な感覚で、片目を指でなぞる様にして、口元に触れるまで、凛々しく、可憐な容姿を兼ね備えた自称、主人公がそこに居た事を、全員がスルーして、試合は再開された。
その間、理亜たちはある話し合いをしていた。
それは、木佐のエクストラロードを、どう攻略するかだった。
エノアにボールが渡されると、エノアはハーフラインにまでドリブルして走る。
飛翔が近付いてきた瞬間、すぐに奏根にパスを出すエノア。
遥は一気に距離を詰め、ボールを奪いにかかる。
レッグスルーでボールを左手に持ち替えた奏根は、ロールターンで右にクルリと回り、遥を抜く。
そこからスリーポイントシュートを打とうとした奏根は、またもや目線にまでボールを放り投げ、サイクロンシュートネクストを打とうとした。
竜巻が発生し、奏根は、竜巻の衣を身に纏い、敵チームのリングにとぐろを巻く様にして向かって行く。
すぐに飛翔は明鏡止水、抜刀、一の太刀で、竜巻をかき消すと、再び、木佐が声を上げようとしたその時。
「ぱ――」
木佐が言いかけた瞬間、奏根は、リングの下に居る順子にパスを出す。
アリウープで決めようとしたそのパスを、空中で取ろうと、ジャンプする順子。
しかし、知留の手のリーチの長さが災いしたのか、知留がボールをカットしてしまう。
空中で掴み取られたボール。
だが、順子はずば抜けた瞬発力を生かし、着地した瞬間、再び跳躍し、知留のボールを空中で奪い、ダンクで決めた。
「すごっ!」
「うむ。順子はジャンプした後でも、透かさず、ジャンプができる。順子に取って、二回のジャンプは、一回のジャンプと大差ない。おまけに」
「ピッ! 赤十番、プッシング! バスケットカウントワンスロ―!」
審判のお兄さんが、そう声を上げると、肩を落としながら片腕を上げる知留。
「そう、順ちゃん相手からファール奪うの得意じゃん!」
順子の狙いにいち早く気付いていた芙美と静香が、ニヤリと笑みをこぼす。
順子はきっちりシュートを決め、これで点数は十一対十七。
一本決め、気持ちを切り替える理亜たち。
「ごめん皆。油断してた」
しょんぼりする知留。
「気にする事ないわ~。知留ちゃんは知留ちゃんで、ちゃんと相手にあれを感じさせてるし、これからよ~」
慰めの言葉を色っぽく口にする遥。
「そうだよ。私なんか良いとこゼロだよ。それに比べれば知留ちゃんはカットしたんだ。もっと自信持ちなよ」
参った参った、見たいなノリで賀古も知留を励ます。
知留は今にも泣きそうな面持ちで、「皆、ありがとう」と感謝の言葉を口にする。
「この試合で、知留さんが自信をお持ちになられたら良いのですが」
「どうだろう。ちーちゃん、根っからのネガティブ思考だからね。自信を持つには、勝つだけじゃなく、支えがないと」
イリアスが心配した面持ちで口にすると、代野がぼんやりと見る様に知留の未来を想像する。
しかし、どれだけ想像しても、一向に、笑顔が見られない知留の表情に、眉を顰める代野。
「大丈夫ですよ。大人になれば、誰もが自信を打ち砕かれるものです。私にもそのような時期がありました。その点、知留さんは既に自身とは何か? と模索しています。そう言う人こそ、大人になっても多種多様な事に応用が利き、吸収し、呑み込みがいいんです」
「あ、なんか分かるかも」
銅羅が暖かく知留を見守りながら、涼やかに口にすると、知留の未来を想像して心配していた代野の思考がクリアになった。
いずれ、知留もいつどこでも満面の笑みになれる日が来るのでは、と代野たちはそう願う。
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