
第四二章 大門の暗躍 二話
同時刻、砂川警察病院で、ある不審な動きがあった。
ツエルブが、病室の鍵を壊し、院内を歩いていた時。
院内には、何故か人っ子一人いない。
少し、違和感を感じるツエルブ。
不信感を感じながらも、裏口に出ようと歩き出す。
「ん?」
そこで、病院の裏口の前で、なんと、刃渡り六センチのナイフが落ちていた。
ツエルブは、狂気的な笑みで拾い上げる。
「へひはははは。馬鹿のお陰で丸腰でなくなって済んだぜ」
愛しむように、ナイフを懐にしまうと、ツエルブは、裏口から外に出た。
草木が少し多い外に出たため、更に人目を避けて歩く事が出来る。
ツエルブにとっては、またとない、脱獄のチャンス。
これから、またたくさんの人間を殺められると思うと、笑いが止まらなかったツエルブ。
久しぶりに血に飢えていたツエルブは、手頃な人間を、誰でもいいから殺したかった。
出来る事なら女が良いと、心の内で願いながら。
病院の敷地を出ようとした、その時だった。
パッ!
「――ん⁉」
なんと、ツエルブに向かって、車のヘッドライトが光を当てる。
突然の事に、手で光を遮る様に、覆い隠すツエルブ。
「こんな罠に引っかかるなんてな」
「ああ。だがお陰で、こいつを殺す事が出来る」
ツエルブを待ち受けていたのは、善悟と輝美だった。
既に銃口をツエルブに向け、引き金に手を掛けていた。
ツエルブは、一瞬、驚く表情をしていたが、一変して殺伐とした空気を醸し出す。
「なるほどな。どおりで院内には人はいないは、ナイフは落ちてるわで。まあいい。お前らを殺して、少しばかり、院内で溜まっていた、ストレスを解消させてもらおうか。その後はお楽しみの時間だ。フヒハハハハッ!」
悦に入るツエルブ。
それを鼻で笑う輝美。
そこで、善悟が、一発、発砲する。
その弾は、ツエルブの左肩を貫いた。
「うぐっ!」
ツエルブは、肩からドクドクと流れる血を手で触れると、狂ったかのようにニヤリと笑い、手で血を拭うと、自らの血を舐める。
「フヘハハハハッ! 今ので殺せなかったことを後悔しろ!」
すると、ツエルブは戦闘態勢に入り、左足のペナルトギアをオンにしようとした。
「――なっ⁉」
「どうした? 何か体にでも異変が起きたのか?」
ペナルトギアが、うんともすんとも言わず、動揺するツエルブに、嫌味ったらしく口にする輝美。
「……やってくれたなクソヤロー」
「下衆に何言われても響かねえよ……ここまでだ」
鋭い目つきで睨みつけてくるツエルブに対し、善悟は意にも返さない。
一体、ツエルブのペナルトギアに何が起きたのか?
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