
第四二章 大門の暗躍 六話
「俺はお前みたいな壮絶な過去じゃないが、刑事になりたかった一番のきっかけは、忌むべき事柄を、目の当たりにしたからだ」
「ん? どういう意味だ?」
輝美も俯き、少し暗い表情になる。
言わせるのが少し気が引けてしまった善悟だが、お互いフェアに行くべき、聞くことにした。
「単純な話さ。俺の家族は二人して元政治家でな。最初は市民のために身を切るだとか息巻いてた割に、政治家になった途端、金の事しか考えなくなった。税金は上がり、物価高で国民は困窮するばかり。そんな死に物狂いで今を生きる国民たちを、しまいには家で害虫なんて呼ぶようになった。害虫がせめて役立つように、税金だけでもむしり取れればそれで良いなんて、平気で口にする様になった。俺はそれが嫌で、ボイスレコーダーで両親のその会話を録音し、ネットに流した」
「えっ! まじでか⁉」
輝美が沸々と怒りが込み上がっているかのように、感情を押し殺しながら話す、驚愕の言葉に、善悟は身を引くほど驚く。
「ああ。その後は、誰でも想像できる通り、騒動が起き、家の両親は政治家を辞職した。そして騒動の切っ掛けになった俺は、親に見捨てられ、祖父の家で世話になった」
「はあー。お前の方がよっぽどシビアな過去だな。俺なんて飲酒の町じゃあるあるな経緯だぜ」
「何言ってんだ。飲酒運転の遺族が、それをきっかけに刑事になると言う奴はそこそこいるかもしれないが、お前はその中で誰もが簡単に出来ない事を有言実行したんだぞ。もっと胸張れよ」
お互い腹を割って話し、どこかスッキリした面持ちになる二人。
また一つ、友情の糸が結ばれた。
そうこうしている内に、手術は無事終わり、ツエルブに事情聴取を取ったあの日に、輝美は作戦を決行するべく、計画を立てた。
計画開始前。
「えっ⁉ マジでそれやるのか⁉」
車内で隠密に密談していた輝美と善悟。
善悟は輝美の計画を聞いて驚愕する。
「筋書はこうだ。奴が完治する頃合いを見計らい、室内の鍵を脆くし、院内の裏口前にナイフを置いておく。後は奴が裏口から出てきて、「襲い掛かってきたから、正当防衛のため射殺した」とお前と俺で口裏を合わせる。そうすれば、奴は法に抵触したからこの世から亡くなった。と上の連中も市民も思うはずだ」
輝美は法で裁けないツエルブを、法で裁くと言う矛盾の作戦を考えていた。
確かに、正当防衛で射殺したとなれば、世間は一時は波風を立たせると思うが、時期が過ぎれば収束するはず。
輝美の狙いはそれだった。
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